舌癒着症手術体験記 母親編:山西クリニックで手術

息子のおかげで知った舌癒着症

私が始めて『舌癒着症』という言葉を知ったのは、初めての子である長男を産んでからでした。

息子が『舌癒着症』であると産院の助産師さんに教えられ、「舌癒着症は遺伝するので、この子の癒着も両親からの遺伝だろう」と言われたのです。

その後、親の舌癒着症については特に診てもらう機会もなく過ごしていましたが、生後三週間で舌癒着症の手術をした息子の舌が生後三ヶ月頃に再癒着しているのが解り、二度目の手術をしてくださった山西先生に診ていただくことになりました。

案の定、確かに舌癒着症であるとのこと。しかも、私の上唇小帯は切れた形跡があり、ぶつけるか何かして切ったことがあるのだろうと言われました。そんな記憶は無いので、たぶん子どもの頃に口の中をちょっと切るケガをしたことがあるのでしょう。

「私は手術をしたほうがいい程度なんでしょうか?」と訊いたところ、確かに癒着は強いとのこと。言われてみれば、舌癒着症が原因かな? と思われる症状には心当たりがあります。

・自分のまわりだけ空気が薄いような息苦しさ
・目の下のくま
・冷え性
 ……などなど。

大人になってからの舌癒着症の手術は、赤ちゃんに対するより深く(三層まで)切らないと効果が出難いのだそうです。また、手術をしたからといって必ず効果があるかどうかはわからないと言われました。まだ赤ちゃんの息子が2度も手術をしたのだから私もやらなくては! と、奇妙な義務感もあり、手術を受けることにしました。

緊張の手術

山西先生の病院では、手術は毎週火曜日の午後からと決まっています。先ずは赤ちゃんの手術。大人はその後です。

午前11時から12時頃までに食事を済ませ、水分補給は2時まで。手術後は様子をみるため、すぐに帰れないそうです。

夫が午後から休みをとってくれたので、一歳になったばかりの息子を連れ、数時間外出しても大丈夫な仕度(飲み物、おやつ、おもちゃ、おむつ、着替えなど)をして出かけ、病院の近くで合流しました。

本当は夫には家に帰ってきてもらって息子と待っていてもらえばよかったのですが、私がたいへん緊張しやすい性質(加えて、痛がりでビビり屋)なので、つきそってもらいたかったのです……。

病院に到着すると、赤ちゃんの手術はもう終わって帰るところのようでした。息子の手術のときを思い出し、「今日は泣いてたいへんだろうなあ」とか「元気に大きくなってね!」と心に念じて見送りました。

手術を待っているらしい大人の患者さんで、点滴をうっている方がいました。赤ちゃんの手術しか知らなかったので、「点滴なんてやるんだ!」とちょっと驚きました。

少し待って、私の名前が呼ばれました。

早速切られるのかとドキドキしながら診察室のイスに座ると、手術はまだとのこと。「手術のときにはちゃんと言いますから、いきなりやったりしませんよ」とにこやかに言われてホッとしました。

麻酔薬を染みこませたガーゼを舌を持ち上げた裏側と上あごの前歯のところと上唇の間に挟みこみ、点滴をうたれました。点滴には抗生剤が入っているそうです。
 苦い麻酔薬交じりの唾液を飲み込まないよう言われ、唾液を吐き出すための器と箱ティッシュを渡されて待合室に戻りました。

手術の始まりです。舌の裏側を三層までと、上唇小帯を切る予定です。

ガチガチになっている私の緊張をほぐすため、山西先生や顔なじみの看護士さんが明るく声をかけてくれましたが、よほどビビっていたのか内容はよく覚えていません。

診察室のイスに座るよう指示されて従うと、歯医者さんのイスのように自動的に倒されました。私は髪をしばって後ろで止めていたので、髪留めを外してよそへ置いてもらいました。(最初から縛らずに行けばよかったと後悔しました)

口の周りを消毒され、丸い穴が開いた緑色の重いカバーを顔と体にかけられました。穴は口にあてられており、手術をする患部だけが見えている状態です。また、点滴はつけたままでした。

左手の人差し指には心拍数や血中酸素濃度を計るクリップ式の機械が付けられ、口を開けた状態で固定する器具(私からは見えませんでしたが、万力とかクランプみたいなのかなと感じました)が装着されました。

「舌をあげて〜」と声をかけられてその通りにすると、細い糸で舌を固定している感触がありました。

「この手術の中では、この麻酔が一番痛いと思っていいよ」と言われ、すぐに舌の付け根あたりにブスリと注射針が!! さきほど麻酔薬が染みたガーゼをあてていたところなので、表面は麻酔で何も感じなくなっているのですが、奥のほうはまだ感覚が生きています。

向きを変えて何度か刺されましたが、その度に「あがががっ」とか「いだだっ」というような声を喉の奥であげてたのですが(口が大きく開いた状態で固定されているので、ちゃんとした声は出せません)、そのたびに山西先生が「痛いよねーそうだよねー」と言いつつ、きっちりブスリブスリと注射していました……。

私はずっと「この感触を言葉で表すにはどうしたらいいのだろう」と、現実逃避気味に考えていました。ちなみに、思いついたのは『濡れた木綿の布地に錆びた針を刺すような』という言葉です。

このあたりは、歯の治療のときの麻酔と同じ感じです。麻酔薬も同じものだそうです。

麻酔の注射が終わると、いよいよ本格的な手術の始まりです。

「始めるよー」と声をかけられ、かすかにザクッと切り開かれる感じが解りました。たまにピーと小さく機械音がしていました。

歯の治療もそうですが、痛みにたいして歯を食いしばって我慢することができないというのは、得体の知れない恐ろしさを感じます。

無痛のままザクザクと切られていくうちに、ほんの少しだけ痛みとも言えぬ感触が沸いてきて、「あれ? ちょっとだけ感触がある? 麻酔がちゃんと効いていなくて、このままいくと急に激痛になっちゃう??」とあらぬ妄想が……。

まだ痛いとまでいかないのに「痛いです!」と強く訴えたら、またあの痛い痛い麻酔注射をされてしまいました。後悔しました。

私はずっと「いつまでやるの?」「まだ終わらないの?」とぐるぐる考えながら、自分が無意識のうちに手足に力を入れて固まってるのに気づき、身体の力を抜くというのを繰り返していました。

そのうち心拍数などを計る機械をつけた左手の人差し指が揺れはじめ、どうやら恐怖と緊張のあまり震えているようでした。

息子は私とのお風呂でシャワーをかけられるとガクガク震えて泣き叫ぶので、怖いときに震えるのは私の血筋なのかしらとどうでもいいことを考えながらも、両手が震えるのは手術が終わってからもなかなか止まりませんでした。

そうこうしている間も、診察室の外から息子の元気のよい声が聞こえてきます。だーだー、ぶーぶーと息子の喃語は時に叫び声に近いほどシャウトし、そのたびに山西先生と看護士さんが「声大きくなったなあ」とか「お喋りだから頭よくなるよ」などと言って笑っていました。

空気が美味しい

「二層まで切ったよー」と山西先生の声が聞こえたころ、ふいに口の中が広く感じました。口も舌も固定されていたので確かめようも無いのですが、口内の空気感とか舌が軽くなったのを感じたのかもしれません。

そして、看護士さんの「あ、すごい。酸素濃度が96から99になった」という声が聞こえた途端、深呼吸をしたときのようなたくさんの酸素が、すうっと身体に入り込んできたのを感じました。マスクを外したときのような、サウナから出たときのような感じです。

それまで100以上だった心拍数が落ち着いてきたそうで、山西先生が「普通は手術が進むほど緊張して心拍数が上がるけど、この手術は反対に落ち着いてきちゃうんだよねー」と言うのが聞こえましたが、私の手は相変わらず震えていました。そーとーなビビり屋です。

舌小帯の手術も終わりに近づき三層まで切ると、私の血中酸素濃度は99〜100%になったそうです。確かに、手術前(というか、二層を切る直前まで)と同じ空気なのに、空気がとても美味しく感じられました。同時に、ずっと意識しなかったけど、自分って実はかなり苦しかったんだなと思いました。

やっと終わったと脱力したのもつかの間、次は上唇小帯の手術です。また麻酔注射です。口を固定していた器具や糸を外し、上唇をめくって麻酔注射をうたれました。

でも、上唇小帯のほうはわりとさくさくとすぐに終わってしまいました。上唇小帯の筋を切るときのブツッブツッという感触と、肉が焼ける匂いだけが感じられました。私もお肉なんだなあと、当たり前といえば当たり前なことを考えているうちに終わってしまいました。

カバーや器具を取り外し、イスが起こされ、点滴が外されました。

ずっと緊張していた身体は強張り、両手は相変わらず震えていましたが、待合室で待つように言われて診察室を出ました。

待合室で待っている間、手術の様子を夫に話したいのに、舌がまわらず思うように話せません。

筆談も交えて伝えている間も、口の中では唾液がどんどん沸いてきていました。ポケットティッシュでは間に合わないので、タオルを口にあてていました。

忘れないうちにと手術の手順をメモしようとしても、手が震えるのでまともに字が書けませんでした。

しばらくして、もう一度診察室に呼ばれました。診察台のイスに座ると、山西先生が上唇をめくって、いつの間にか挟んでいたガーゼを取りました。

手鏡を渡されて傷口を見ると、舌の根元にひし形の大きな穴があいていました。上唇をめくると、上唇小帯の筋だけではなく、歯茎にそって上唇の裏側をはがすような感じにけっこう深く切られています。上唇小帯は、そこまで切ることで鼻の通りがよくなるそうです。

処方される薬のこと、明日また診せにくること、その後は一週間後と一ヵ月後にくること、看護士さんの説明を受けることを伝えられ、舌小帯を切った傷口にガーゼを入れ、私の手術は全て終わりました。

処方された薬は、
・パセトシンカプセル 細菌の感染を抑える
・ロキソニン錠 痛みや炎症を抑え、熱を下げる
・ボルタレンサポ25mg 痛みや炎症を抑え、熱を下げる

の三種類で、上二つは食後に一つずつ、三つめは座薬て痛みが強いときに使います。

手術の麻酔は家につくころには切れてくるので、処方箋を持っていって薬局で薬を受け取ったら、痛み止めのロキソニンだけは先に飲んでおいたほうがいいとのことでした。また、授乳のときには少ししぼってから与えることにしました。

看護士さんも最近舌の手術をしたそうで、自分の体験もふまえて助言してくれたので、とても心強く感じました。

この手術は人によって受け取る痛みが違うようですが、私の場合は麻酔の注射と点滴の注射が痛かったくらいで終わりました。

前に親知らずを抜いたことがありましたが、あの時と比べたら歯を抜くのが10とすると、舌癒着症の手術は7〜8くらいでした。